【書評】AirBnB Story | 使える知恵を得るための仕事術としての書評
Twitterでは不定期で「駐在や駐在キャリアを目指す中で役立った本、駐在中の息抜きになった本」などのお勧めを紹介しています。
駐在中、若しくは駐在キャリアを目指す中で読んで役に立った本、良かった本を、いいねの数だけまとめていこうと思います。
読書量には自信があるので、絶対にいいねの数だけやり切れる自信あります。うす!— コーカス@欧州駐在員 (@kkrchuzai) May 22, 2022
今回は、それと関連して、「私の好きな本についての書評」といういつもと違った感じの記事を書こうかなと思います。
個人的に、書評は本の内容を紹介するものでは”なく”、本から学べる事、本を読む切り口みたいなものを紹介すべきだと思っているので、ちょっと堅い記事になるかもしれませんが、もしご興味あればご覧いただけると嬉しいです!
本記事では、今では旅行等になくてはならないサービスであるAirBnBの創業者たちの伝記であるAirBnB Storyを、「どうやって使える知恵を得るのか」という仕事術を学ぶという観点から紹介します。
「使える知恵」をどう得るか?
「いま自分が直面している問題に効果的に使える知恵」を得るにはどうしたらよいのか。
実は、このAirBnB Storyはこの方法を学ぶのに最適な本だ。
日々仕事をする時は勿論、家庭の問題だとか、プライベートの問題、キャリアの問題などを考える時、「教科書では学べない知恵をどうやって得るか」はメタ的な問題としていつも存在する。
“Airbnb Story”という本は、そのメタ的な問題をどう解決するかを学ぶのによい本だと思う。
以降、「使える知恵」とは、「いま自分が直面している問題に効果的に使える知識」くらいの意味で使っていく。
「使える知恵」を得るのが上手いAirbnb創業者
“Airbnb Story"は、そのタイトルの通りAirBnBの成長のストーリーについて書いた本だ。3人のデザインスクール卒の若者が起業し、失敗や困難にあいながらも、"自宅の一室やベッドを他人に貸す"という事業アイデアを育てていく。そういう企業の成功譚だ。
だから、本書は、教科書に書いてない知恵を得る方法、とか、効果的な勉強法、といったハウツー本ではない。
しかし、この本は、単なる企業の成功譚として読むよりかは、3名の創業者のうち本書内で「永遠の学習マシン」と評されているブライアン・チェスキー氏の「使える知恵を得るための学び方」を学ぶつもりで読むのが面白いのでは、と私は考えている。
本書の中で、チェスキー氏は、ベンチャー関連の業界の中で、「アドバイザーを作りアドバイスを聞きに行くのが上手く、積極的だ」と何度も賞賛されている。界隈では有名な話らしい。そしてこれは「創業者自身とAirbnbが、確実に早く成長する為に必要且つ重要な能力だった」とも評されている。
つまり、チェスキー氏は、世界で最も野心家で頭の良い人たちが集まるシリコンバレーの中でも随一の「学ぶのが上手い人々」のうちの一人なのだ。
「使える知恵」を得る難しさ
現代、ネットにはあらゆる情報があふれているように見えて、引き続き大事な「使える知恵」は先に同じような問題に対処した人や深い経験を持つ人の”頭の中”にしかない。
ある問題や状況に対して、一般的にこうだとか、理論的にこうだとか、辞書的にこうだとか、Wikipedia的にこうだ、という知識はインターネットにあふれている。
けれど、それらはいずれも「使える知恵」ではない。それだけでは抽象度が高かったりピンポイント過ぎて、文脈によって解釈や使い方が変わりすぎるのだ。
例えばあなたが駐在先で子供の学校選びに悩んだとして、それはネットでいくら検索しても適切な情報は出てこないだろう。貴方と同じような境遇の人が、貴方と同じような問題に対処して、実際に経験してどうだったのか、また、そういう人たちを多数見て深い経験を持つ人がどう考えているのか、といった情報がインターネットや本などに都合よくまとめられていることはかなり稀である。
そうした世の中で、直面する問題をどうやって解決していったらよいのだろう。
実は、答えは単純だ。わかっている人、経験した人に聞くのだ。
適切な人に適切にアドバイスを求めるのである。
しかし、単純な答えにもかかわらず、これはかなり奥が深い。
最先端にいる人や深い経験を持つ人を見つける力、それらの人に「giveしよう」と思ってもらえる工夫や質問力といった力は、Googleの検索力や特定の分野の資格や知識よりも、抽象度が高く鍛えにくいからだ。
適切な人に聞く、というのは案外難しい
実際やってみるとわかる。「使える知恵」を得るために適切な人に聞く、というのは難しい。そもそもどういう人に聞けばよいのか、というところから大抵の場合はつまづく。
大学の先生?コンサルタント?昔その仕事をしていた人?、それとも占い師?同じような経験をしたことのありそうな先輩はどこにいる?
アドバイスを求める先には、多くの選択肢がある。そして、面倒なことに、”アドバイスを与えることを仕事にしている人たち”が、聞こえの良い言葉で貴方の不安をくすぐる。曰く、「このセミナーを受ければ疑問が払しょくされます」「このnoteにあなたができるようになるためのすべてが書いてあります」云々。
そんな時、本書を参考にしてほしい。
チェスキー氏は、ある問題に対する知識について、”その分野の(知識面の)専門家”ではなく、”その知識を実践(知恵化)していないと生き残れない人”に聞きに行くスタイルを取り、これで成功してきた。
例えば、本書で紹介されているように、CIA長官に「組織文化の浸透(全員がスパイの組織において、どのように忠誠心を持たせるのか)」について尋ねるなどしている。
また、貴重な知恵は、色々な人に尋ねるのではなく、最もそのことに詳しい人を一人見つけてじっくり話を聞くのが良いようだ。
このやり方は興味深いと思う。
私が思いついた卑近な例でいえば、(男性が)複数の女性と上手くやっていく方法について悩んでいるなら、美容部員の男性マネジメントに聞くと良い、というような話だ。いわゆる「女性との付き合い方コンサルタント」といったような人に聞くよりも、そうした「実際にその知識を実践していないと生き残れない人」に聞くのが良い。(そんなコンサルタントがいるかは知らないが、世の中には大体のことについてはコンサルタントがいる)
「使える知恵」を得ようとする姿勢は、人との出会いを活かすことにもつながる
さらに言うと、このチェスキー氏のやり方は、ある問題に関して質問をするのに適切な人選だけでなく、たまたま出会った人に聞くべき適切な質問の見極めや出会った人との興味深いやり取りにも役立つ。
たまたま貴方がある人に出会ったとしたら、その人がその職業やその立場で生き残るにはどのような機能やスキルや考え方が必要なのか、それらの機能等は自分の組織や思考にどう役立てられるか、を考えるのだ。
そして、それを考えたうえで、その人に聞くべき質問を導き出す。
そうすることで、お互いが有意義な時間を過ごすことができる。先ほどのCIA長官の例で言えば、CIA長官もそうしたことを聞かれることは余りないだろうから、この疑問に答える過程で自分で自分の思考を整理できるし、一方方向ではなくその問題を自分事として考えているチェスキー氏と話すことで新たな発見が得られるだろう。
個人的には、この考え方も好きである。こうやって考えていくことで、全ての出会いや打ち合わせを、単純に知識を得る以外に、経験に基づく「使える知恵」を得たり、学習する機会にできる可能性があるからだ。
勿論、私も今まで心がけてやってきているが、毎回必ず成功するわけでもない。しかし、試してみる価値は十分あると思う。
加えて、このやり方にはもう一つ素晴らしい効果もある。
どうやら人は、「通常は聞かれない質問だが核心をついている質問」をされると、その質問をした人のことを気に入る傾向があるのだ。奇をてらった質問を狙いすぎるのはよくないが、上述の通りしっかり考えたうえで行った質問ならば、相手も悪い気はしない。
更に、その質問が「質問者が真剣に悩み考えている問題からくる質問」であった場合、会話は知恵を与える一方方向のものではなく、お互いの問題意識や経験を交換する双方向のものになりうる。
人は、双方向で興味深く実りのある会話ができた時、その人間関係を続けようと思うものだ。
「相手から使える知恵を得ようとする姿勢」は、貴方の良い人間関係にも繋がりうるのだ。
本書は、それを学べるだけでほとんどの自己啓発本やスキル本よりも価値があるだろう。
終わりに
蛇足ですが、社会人の仕事力、といった文脈で言うと、教科書的な知識や基本的な仕事の進め方など、基礎的な能力を身に着けた後の20代後半くらいからは、こうした思考を学んでいったほうが良いと思います。
本当に使える知恵は、先行する人の頭の中にしかないし、特殊な状況での正しい対処法は深い経験を持つ先輩の中にある場合が多いと、一兵卒から中堅になって仕事を行っている今、ひしひしと感じます。
それでは、Have a nice day!
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